取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

読書記録

最近読んだ小説

男の書く小説は大きく二つに分けることができる。一つはハードボイルド鋼鉄系、もう一つは夜中に付き合ってない女がいきなり家に訪ねてくる系である。前者は私の最も好きな様式、後者は最も苦手かつ嫌いな様式であるが、不可解なことに特に日本においては後…

山本直樹『レッド』

レッド 1969~1972(1) (イブニングコミックス)作者:山本直樹講談社Amazon あらすじ(上記リンク先より引用) 革命を目指す若者達の青春群像劇。この物語の登場人物達は決して特別ではない--。物語の舞台は1969年から1972年にかけての日本。ごく…

林公一『家の中にストーカーがいます』

こころと脳の相談室名作選集 家の中にストーカーがいます “こころの風邪”などありません、それは“脳の病気”です impress QuickBooks作者:林 公一インプレスAmazon Dr.林のこころと脳の相談室における主要コンテンツ「精神科Q&A」の電子書籍化。紙は無し。 …

チェホフ『かもめ・ワーニャ伯父さん』

かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)作者:チェーホフ新潮社Amazon 恋と名声にあこがれる女優志望の娘ニーナに、芸術の革新を夢見る若手劇作家と、中年の流行作家を配し、純粋なものが世の凡俗なものの前に滅んでゆく姿を描いた『かもめ』。失意と絶望に陥り…

2021年良かった本

年の暮れであるので、簡単にだが振り返り。 2021年に刊行されたという訳ではなく、専らただ単に私がこの2021年に読んだ中で良かったもの、という独断の括りであり、そもそも私自身そんなに数を読む方ではないので母数も少なく、読者諸氏の参考にはならないで…

高学歴とモテ

彼女は頭が悪いから (文春文庫)作者:姫野 カオルコ文藝春秋Amazon あらすじ(上記リンク先より引用) 横浜市郊外のごくふつうの家庭で育った神立美咲は女子大に進学する。渋谷区広尾の申し分のない環境で育った竹内つばさは、東京大学理科1類に進学した。横…

佐野洋子『シズコさん』

シズコさん (新潮文庫)作者:洋子, 佐野新潮社Amazon 上記リンクより引用 四歳の頃、つなごうとした手をふりはらわれた時から、母と私のきつい関係がはじまった。終戦後、五人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後三人の子を亡くした母。父の死後、女手一つ…

古田徹也『はじめてのウィトゲンシュタイン』

はじめてのウィトゲンシュタイン NHKブックス作者:古田 徹也NHK出版Amazon 勉強として読んだのでメモ。 ウィトゲンシュタイン、大学の頃に『論理哲学論考』を図書館で借りて数10ページ字面を追ってみたものの何もわからず返却したという苦い思い出があり…

新庄耕『狭小邸宅』

狭小邸宅 (集英社文庫)作者:新庄 耕集英社Amazon 勧められて拝読。暫く、人から勧められたものを愚直に読んだり見たりすることの意義を再確認している。この小説も良かった。 名門大学を卒業し、目標もなく漂流するように入った不動産会社。数字だけがものを…

ぼくらの非モテ研究会『モテないけど生きてます』

「本読んだらできるだけ都度感想書く」と以前宣言したが、当然、続いていない。やっぱり毎回書くのは疲れるから無理だ。気を取り直して、書きたい時に書きます。 モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究作者:ぼくらの非モテ研究会青弓社Amazon書…

筒井康隆『モナドの領域』『ジャックポット』

あの筒井康隆も今年で御年87歳になるそうで、恐らくもう死まで年読み、月読み、秒読み段階だろう。そんなわけで直近に出された本は存命のうちに読んでおこうと思い立ち、GWに続けて2冊読んだ。 『モナドの領域』 モナドの領域作者:筒井 康隆発売日: 2015/12/…

ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー『フライデー・ブラック』

フライデー・ブラック作者:ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー発売日: 2020/02/03メディア: 単行本 骨太で冷静、爆発的。すばらしい。アメリカの、そして我々の現在を肌で生々しく、しかしデジタル時計みたいに正確に測り知れる珠玉の短編集。これ以上なく政…

大藪春彦『ヘッド・ハンター』

ヘッド・ハンター (光文社文庫)作者:春彦, 大藪発売日: 2020/08/06メディア: 文庫 あらすじ(Amazonより) 晩秋のアラスカ荒野に、独り獲物を追う男がいた。杉田淳、三十四歳。元傭兵の彼の標的は、人間ではなく野生動物たちだ。大ヘラ鹿、グリズリー、バイ…

J.M.クッツェー『マイケル・K』

マイケル・K (岩波文庫)作者:J.M.クッツェー発売日: 2015/04/17メディア: 文庫 あらすじ(Amazonより) 土のように優しくなりさえすればいい―内戦の続く南アフリカ、マイケルは手押し車に病気の母親を乗せて、騒乱のケープタウンから内陸の農場をめざす。ひ…

アゴタ=クリストフ『悪童日記』

新年度です。モンハンライズを買いたい気持ちを賢明・懸命にねじ伏せて読書をする。 今まで読書記録は気が向いた時だけ書いていたが、やっぱりインプットとアウトプットちゃんと併せてやった方が良いなという気持ちになってきたので、これから暫くは(積読消…

下村湖人『論語物語』

論語物語 (河出文庫)作者:下村湖人発売日: 2020/11/05メディア: 文庫 論語は「天の書」であると共に「地の書」である。孔子は一生こつこつと地上を歩きながら、天の言葉を語るようになった人である。天の言葉は語ったが、彼には神秘もなければ、奇蹟もなかっ…

遠藤周作『悲しみの歌』

小説の感想・書評ってずっと苦手で、良い悪いか好き嫌いくらいしか言うこと無いと思っているが、久しぶりに遠藤周作を読んだので…。悲しみの歌(新潮文庫)作者:遠藤周作新潮社Amazon『海と毒薬』の続編。なぜか未読だったため、『海と毒薬』を読んでから10…

澁澤龍彦『快楽主義の哲学』

快楽主義の哲学 (文春文庫)作者:澁澤 龍彦発売日: 2019/04/26メディア: Kindle版澁澤龍彦(1928-1987)は別に好きって訳ではなく、澁澤龍彦に限らずフランス文学好きとは馬が合わない自信があるが、馬が合わないなりにも面白いと思う部分はある。これも何と…

シオラン『絶望のきわみで』『生誕の災厄』

久しぶりの読書記録。 シオラン(1911-1995)はルーマニアの思想家でアフォリズム作家。ペシミスティックで反出生的なその思想からニーチェやキルケゴールあたりの大陸哲学の一派として位置づけられるが、著作を読めばわかる通りシオラン自身には哲学という…

ジョゼフ=キャンベル『神話の力』

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)作者:キャンベル,ジョーゼフ,モイヤーズ,ビル発売日: 2010/06/24メディア: 文庫 商品詳細より 世界中の民族がもつ独自の神話体系には共通の主題や題材も多く、私たちの社会の見えない基盤となっている。神話はなん…

『ショーン・タンの世界』と『アライバル』

ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ作者:ショーン・タン発売日: 2019/05/20メディア: 単行本(ソフトカバー)いま全国巡回中の「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ |」の公式図録。去年東京のちひろ美術館で開催されていて行けず終いに…

キケロ『友情について』

老年について 友情について (講談社学術文庫)作者:キケロー発売日: 2019/02/09メディア: 文庫 再読本。大学時代に岩波文庫版で読んで大層感動し、人と人との関係性に対する考え方を15度くらい変えさせられた思い入れの強い本なので、去年講談社学術文庫で新…

シェル=シルヴァスタイン『おおきな木』

おおきな木 作者:シェル・シルヴァスタイン,Shel Silverstein 発売日: 2010/09/02 メディア: ハードカバー 半年に1回くらい、無性に絵本が読みたくなる。 母親の趣味で幼少期にちょっとした絵本英才教育を受けていたためだろう。今でも書店に行くと絵本コー…

弓削達『地中海世界』

地中海世界 ギリシア・ローマの歴史 (講談社学術文庫) 作者:弓削達 発売日: 2020/01/10 メディア: Kindle版 古代ギリシアと古代ローマを「地中海世界」としてひと繋ぎに追う本。ゆえにかなり駆け足だし、著者のメイン研究域であろう帝政ローマに入るまでだい…

萩尾望都『11人いる!』

11人いる! (小学館文庫) 作者:萩尾望都 発売日: 2014/08/25 メディア: Kindle版 あらすじ 宇宙大学受験会場、最終テストは外部との接触を絶たれた宇宙船白号で53日間生きのびること。1チームは10人。だが、宇宙船には11人いた! さまざまな星系からそれぞ…

『アメリカ名詩選』

フランスよりイギリス、イギリスよりアメリカ。小説に関して言えばそれが自分の好みだった。もっとも大した遍歴があるでもないが、フランス小説はどうも貴族的で陶酔した雰囲気のあるものが多くて食傷してしまうし、イギリス小説はそれよりはとっつきやすく…

立花隆『エーゲ 永遠回帰の海』

エーゲ 永遠回帰の海 (ちくま文庫) 作者:立花 隆 発売日: 2020/01/10 メディア: 文庫 2005年に出た本ではあるが、この1月に文庫が出たと聞いてそれを買った。 立花隆って読むの初めてだったんだけど、さすが「知の巨人」なんて目されているだけあって一つの…

武者小路実篤『愛と死』

祝・2020年。 年も明けたことだし、今年はこのブログをもうちょっと気軽に動かしていきたい。というわけでメモ程度の読書記録を始める。新年早々本を読むことができた。 あらすじ(下記リンク先より引用) 友人野々村の妹夏子は、逆立ちと宙がえりが得意な、…