取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

萩尾望都『11人いる!』

 

11人いる! (小学館文庫)

11人いる! (小学館文庫)

 

 

あらすじ

宇宙大学受験会場、最終テストは外部との接触を絶たれた宇宙船白号で53日間生きのびること。1チームは10人。だが、宇宙船には11人いた! さまざまな星系からそれぞれの文化を背負ってやってきた受験生をあいつぐトラブルが襲う。疑心暗鬼のなかでの反目と友情。11人は果たして合格できるのか?

 

萩尾望都だから間違いないだろうなと思って読んで、案の定面白かった。

10人で取り組む試験に11人が集まっている!というスクランブルが集団に引き起こす波紋を描いており、「きっと11人いるということ自体、異常事態に瀕した際の応用力を見る課題の一環なのだろうな」というのは読者も最初から何となく予想がつくんだけども、そこまでの描き方がやっぱり上手い。超難関大学の最終試験という熾烈な競争の舞台に共同生活での疑心暗鬼が重なり、更に11人それぞれの立場と思惑がぐちゃぐちゃに絡み合う。

 

というかまず世界観が凝ってるよなあ。冒頭の2ページが「地球概略史」という名の文面で始まるのだが、その時点で期待が膨らむ。遥か未来、地球が宇宙に進出し51の植民地惑星を率いて総合政府テラを樹立し、先行する銀河の三大国ロタ、セグル、サバに肩を並べて星間連盟に加入。銀河は四つの強国が行き交う庭となり、主人公たちは全銀河の学問の中心である宇宙大学に入学するため試験に集う。

 

浪漫があるね。「それにしては人類の形はどの惑星でも地球人とほぼ同じなのどゆこと?」とは思うが、そこはご愛嬌だろう。まあ人類も形状はともかく、生態の方はきちんと練られてあって面白かった。公転周期が64年の惑星で暮らしてるヌーの星とかは、ちょうど人の一生が公転周期と同じくらいだから人類の一生がめちゃくちゃ画一的に語られていて驚いたが、よく考えれば地球人の一生も大概画一的だと思い直した。

ダブル主人公のうちの1人であるフロルも生態が特殊で、二次成長期に入るまで性が決定されない未分化の両性種。萩尾望都をちょっと読んだことある人なら、このフロルにはもう登場シーンからすぐにピンと来るはず。いかにも萩尾望都!という天真爛漫で奔放な美少年で、『ポーの一族』のアランに似てる。

このフロルが「女は嫌、自分は男になりたい」と言うもんだから、私は「あー、BLパターンか」ってややつまらない気分になったが、読み進めたら流石にそんな単純なことにはならなかった。

 

同時収録されてた『続・11人いる! 東の地平 西の永遠』も読んだが、無印が完成されすぎてて続の方はそれよりはちょっと落ちる感じかな。宇宙戦争に未開惑星の古風な柵がプラスされててもちろん面白いけど、こっちには一貫したわかりやすいテーマがないし。あと4世が可哀相すぎて見てらんない。

 

無印の方は本当に、「メッセージはシンプルに、設定は綿密かつ一本道に」というセオリーのお手本みたいなよくできた漫画だった。よくこんなん書けるよな。

未読の萩尾望都マンガ、次は『残酷な神が支配する』にも手を出したい所存。