取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

フィクション

絶庭

頭の中に絶海の孤島がある。 例えば読んでいる小説の5p目、読めない漢字─この場合は『橇』と仮定する─がポンと出てくると、脳味噌のぐちゅぐちゅした連なりに一粒の砂鉄が混入した、そんな気持ち悪さを一瞬味わうことがあるだろう。初めのうちは一瞬だから無…

トンネルを歩く

歩きながら夢を見た。夢の中で俺は蛹だか繭だかで、前脚で膝を抱えて丸まりながら、胸の内にこもったジクジクした体温上昇を感じ取っている。目を瞑っている。夢の中でも眠りに就いて、とろりとした快感の味が魔術みたいに染みてくる。ヤバい気がする。目を…

虚構日記・発達編

今頃あいつどうしてるだろう。どこで何やってんだろうか。大人になっても、未だ搾り取られているんだろうか。 そういう考えが不意に頭に過ったのは、別に初めてのことじゃなかった。実を言うと年に一度か二度程度、あの子のことは思い出す。しかし、そのたび…

虚構日記・空想編

仕事帰り午後8時のくたびれた電車に強烈な香ばしいチキンの匂い。それも、揚げて香辛料をまぶした劇薬のチキンだ。考えるより先に刺激が鼻から舌に伝わり、よく知った脂っこい味が涎をだらっと分泌させる。目線は下ろしたままチラリ辺りを見渡すと向かいの長…

虚構日記・望郷篇

思うに田舎者ってのには、解けない呪縛がかかってるんだ。そんなこと言ったら誰しも同じ、都会者にだって都会者の背負うものがある、と言われるだろうし、実際そりゃあそうだろうが、ただとにかく田舎者にだって田舎者特有の呪縛がある。そして実家に帰るた…

虚構日記・起床編

雨の音で目が覚めた。消し忘れた部屋の灯りで視神経が擦り潰される感じがする。ごそごそと枕元のスマホを見ると午前6時も回っておらず、こんな明け方に起きたのは随分と久しぶりでどうしたものか頭が冴えない。昨晩はやや早く25時過ぎに寝ついてしまったので…

越境すること

干支は12年だし1年は12か月だし、1ダース、というのにはやっぱり何かあるのかもしれない。スピリチュアルに興味はないが、心身の長期的なバイオリズムに12年という歳月もヒリヒリ効いているのだろうか。最近中学の頃をよく思い出す。 以下、多分にフィクショ…