取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

Stolen Car (Sting, 2003)


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Late at night in summer heat.
Expensive car, empty street
There's a wire in my jacket. This is my trade
It only takes a moment, don't be afraid

I can hotwire*1 an ignition*2 like some kind of star
I'm just a poor boy in a rich man's car
So I whisper to the engine, flick*3 on the lights
And we drive into the night

Oh the smell of the leather always excited my imagination
And I picture myself in this different situation
I'm a company director, two kids and a wife
I get the feeling that there's more to this one's life

There's some kind of complication, he tells her he's alone
Spends the night with his lover, there's a trace of her cologne
And the words of his mistress*4, as she whispers them so near
Start ringing in my ear

Please take me dancing tonight I've been all on my own*5
You promised one day we could its, what you said on the phone
I'm just a prisoner of love always hid from the light
Take me dancing, please take me dancing tonight

I imagine his wife, she don't look nothing like a fool
She picks the kids up form some private school
She remembers what he told her, he was late and worked alone
But there's more than a suspicion in this lingering*6 cologne
And the kid's just won't be quiet and she runs a traffic light
And she drives into the night

Please take me dancing tonight I've been all on my own
You promised one day we could it's what you said on the phone
I'm just a prisoner of love always hid from the light
Take me dancing, please take me dancing tonight

So here am I in a stolen car at a traffic light
They go form red to green and so I just drive into the night

Please take me dancing tonight I've been all on my own
You promised one day we could it's what you said on the phone
I'm just a prisoner of love always hid from the light
Take me dancing, please take me dancing tonight

歌詞は以下より引用:
Musixmatch - Song Lyrics and Translations

しけこんだ夏の夜遅く
ガラガラの通りに高級車が1台
ジャケットに仕込んだワイヤーが商売道具
すぐ終わるからビビらなくていい

ワイヤーが星々みたいな火花を散らす
俺は金持ちの車に乗った貧しい少年
エンジンに囁いてライトをつける
そうして夜に向かって走る

皮の匂いはいつも想像力を刺激する
違う状況の違った自分
俺は会社の重役で 子供が二人と妻がいる
しかしどうやら話はそれだけじゃない

複雑な問題だ 妻には君だけと言いながら
他の女と夜を過ごし コロンの匂いをまとってる
だって女が言うんだよ 耳元で囁いた彼女の言葉が鳴り止まないんだ

今夜はダンスに連れてって 私はいつも一人なの
約束してくれたでしょ 電話でそう言ってたじゃない
私は愛に囚われて いつもライトが当たらない
ダンスに連れてって 今夜はダンスに連れてって

今度は妻を想像してみる 彼女はバカじゃないだろう
私立の学校に車で子供を迎えに行く
「仕事で帰りが遅くなる」旦那にそうやって言われたからだ
しかしコロンの残り香が疑いをどんどん強くする
子供が静かにしてくれず 彼女は信号を抜かしてしまう
そうして夜に向かって走る

今夜はダンスに連れてって 私はいつも一人なの
約束してくれたでしょ 電話でそう言ってたじゃない
私は愛に囚われて いつもライトが当たらない
ダンスに連れてって 今夜はダンスに連れてって

かたや盗んだ車で信号待ち
赤から緑に変わったら 俺も夜に向かって走る

今夜はダンスに連れてって 私はいつも一人なの
約束してくれたでしょ 電話でそう言ってたじゃない
私は愛に囚われて いつもライトが当たらない
ダンスに連れてって 今夜はダンスに連れてって

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 なんといっても歌詞が面白くてStingで一番好きな曲。先日のライブでは歌われず残念だったが、今も仕事中に車でよく聴いている。

 高級車の窃盗を生業とする男の妄想の歌であるが、短い中に技巧が詰め込まれており幾重にも投影された人間劇が面白い。貧しく暗い仕事をする「俺」が、盗んだ高級車の中で持ち主の生活を事細かに妄想し、自虐じみた陶酔に浸っている。
 「ダンスに連れて行って」とせがむのは、表面的には妄想上の自分の浮気相手の台詞だが、妻や「俺」の心情としても読み取れる。男の妄想には欲望が仔細に投影されており、会社の重役という華々しい身分になって妻と二人の子供に囲まれておきながら、美しく孤独な愛人という蠱惑的・背徳的な魅力にも放蕩する。
 いま自分が盗んで乗っているこの車の中で繰り広げられた情事や事件を想像して興奮する…っていうのはわりと皆わかる感覚だと思うが(盗むとかないけど)、それを歌にする発想が面白いし、妄想からも「俺」の実際の人生の陰部が垣間見え、それらを纏いながら振り払うように夜道を走っていく車の鋼鉄が最後に喚起される…といった優れた構成になっている。
 poor boyは比喩かと思ったが、何度も聴いていると本当に「俺」は結構若いのかも。different situationの自分って言ってるから、違う人生を歩んだ(同い年の)自分の妄想と考えるのがまあ妥当ではあるが、仮に「俺」が若くてもそれはそれで妄想先の「会社の重役」との差が尚更開いて良い気がする。その若さで人生が決まってしまっている絶望みたいなのが踏まえられる。

 なおhotwire an ignitionというのは、ワイヤーや針金でイグニッションインターロックをつなげることで車のキーなしにエンジンをかける方法だそうで、実際のやり方の動画があった(↓)。修理工のほかに、一般人でも鍵をなくした時なんかはこういう発進を試したりするようだが、いかにも悪いヤツらがやってそうでカッコイイ技術。この曲にピッタリで良いね。

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*1:エンジンをかける

*2:点火装置

*3:ピンとはじく

*4:愛人

*5:on my own:ひとりぼっち

*6:linger:後に残る