取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

歌詞で追う宇多田ヒカルの20年

宇多田ヒカルのデビューは1998年で、当時自分は4歳だった。

翌1999年にあまりにも有名なアルバム「First Love」を発表し、国内外合わせて累計1000万枚を超える異例のヒットを記録。当然4歳の子供にその時の記憶はほとんどないけど、テレビの向こう側で宇多田ヒカルフィーバーが起こっていたことはぼんやりと覚えている。まともに曲を聴くようになったのは中学の頃で、以来ずっと一番好きなアーティストである。

 

 

どこが好きかと考え始めるといろいろあるが、私は詞に特別に惹かれる。真似できそうで真似できない、綺麗に頭に入る歌詞を書くなあといつも思う。

ただ宇多田ヒカルの歌詞と一口に言っても、デビューからの20年で結構変化があるんですよね。という訳で、折角ブログを始めたんだし、宇多田ヒカルの曲の中で自分が好きな歌詞を書き連ねてちょっと変遷を俯瞰してみようと思う。

 

権利を損なわない程度の抜粋になるけど、好きな歌詞はたくさんあるので結果的にかなり長くなってしまった。

折角だからアルバムごとで区切って所感なんかも書いてみた。既にある程度宇多田ヒカルを知ってるファン向けの文章になっています。

 

 

 

1999年(16歳) Fisrt Love

First Love [12 inch Analog]

First Love [12 inch Analog]

  • アーティスト:宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1999/06/30
  • メディア: LP Record
 

 いつ見てもすごいジャケット写真。眉毛カットも考えたことのないまだまだ純真な子供時代に、早くもメジャーデビューを果たす。

『Automatic』でデビューしたけど実際に本人が初めて作った日本語詞曲は意外?なことに『Never Let Go』。アルバムタイトルの『First Love』はシングルとしても爆売れし、「最後のキスは煙草のFlavorがした」という生意気極まりない出だしも話題になった。

デビュー直後の宇多田はその歌詞に負けず劣らずメディア上の本人の態度もかなり生意気で、タモリダウンタウン松本にもタメ語だから結構お茶の間の反感を買った。タメ語については帰国子女だからやむを得ない部分もあるが、そもそもの性格もちょっといけ好かない偉そうな感じだった。当時の動画を見ると私でもイラッとする。でも、情緒不安定な等身大の16歳がテレビに出たら普通はそんなものだと思う。生意気で皮肉屋なポーズを取ってしまったのかな、と考えるとかわいいと思えなくもない。以下好きな歌詞抜粋。

 

Never Let Go
・真実は最高の嘘で隠して 現実は極上の夢でごまかそう

・太陽に目がくらんでも その手を離さないで

Automatic

www.youtube.com

・やさしさがつらかった日も いつも本当のことを言ってくれた
・アクセスしてみると映るcomputer screenの中
 チカチカしてる文字 手を触れてみると I feel so warm
 
B&C
・約束はしないで 未来に保証は無い方がいい
 賭けてみるしかない come on and try me
・何があっても 何があっても 後悔しない take me with you
 行けるとこまで 行けるとこまで ずっと Bonnie&Clydeみたいに
 
Movin'on Without You

www.youtube.com

・用意したセリフは完璧なのに また 電波届かない午前4時
 静かすぎる夜は 考えが暴れ出すの
 分かってるのに 結局寝不足
 
Another Chance
・口笛ふけない君
・こんなにnaturalな感覚が 間違ってるわけないのに
 
甘いワナ
・街で偶然会う度に 深まっていった疑惑
 行く先々に現れる変なヤツ
 いつもあぶないことばかりしてるから
 どうしても気になっちゃう love trap
・あなたの鎖が心地良くなってた
 あなたの両手に包まれた 蛍のように光っていたい
 
In My Room
・戦うのもいいけど 疲れちゃったよ
 夢も現実も目を閉じれば同じ

 

Give Me A Reason
・何にも縛られたくないって叫びながら 絆求めてる
 守られるだけじゃなく 誰かを守りたい
・すべての法則うらぎってみせる たとえそれが運命でも
・Give me a reason to show you いつか君に追いつきたい
 (won't you) Tell me why I should try to 近づく程に遠くなるみたいだ
 
 
若く青く先鋭な感性。音楽家夫婦の子供として生まれた宇多田ヒカルは幼い頃から大人だらけの環境に身を置いてきたために、女の子としての目も自ずと成人男性ばかりに向けられたようだ。「最後のキスは煙草のフレーバーがした」という有名な歌詞はそういうマセた男性観を象徴している。でもこうしてまじまじと歌詞を一覧してみると、「結局16歳だな」とも思わされる。
『Give Me A Reason』なんてタイトルからして青臭さがプンプン漂っている。「守られるだけじゃなく 誰かを守りたい」って、16歳じゃ守れないから絶対。無茶だよね。まさに暗くて多感なリアルな背伸び子供、でも抜群の才能があった。
『B&C』は宇多田ヒカルにしてはかなり明るいというか、相手との未来をまっしぐらに信じる幸せ一杯の曲で、私はこの「今にも裏切られて崩れ落ちそうで、本人も何となくそれを予感してるけど、今は目の前の幸せしか見たくない」みたいな危うい感じが大好きだが、宇多田自身はこの曲が明るすぎて歌うのに非常に苦労・抵抗があったらしく、レコーディングが一番辛かった曲だとどこかで言っていた。
 
 

2001年(18歳) Distance

Distance

Distance

 

 18歳で出したセカンドアルバム。奇しくもと言っていいのか、当時絶頂期だった浜崎あゆみのベストアルバム「A BEST」と発売日被りし、各種メディアやCDショップでは「史上最大・空前の歌姫対決」として大いに盛り上がった。なお浜崎あゆみは数年前に宇多田の『Movin' on Without You』をカバーしていて、あれはハマっていたな。


Addicted To You

www.youtube.com・今おとなになりたくて いきなりなれなくて
 oh baby 君にaddictedかも
・まわりのみんなも言い訳は似てる 理由が必要だって思ってる
・会えない日の恋しさも 側にいる愛しさも 同じくらいクセになるんだ
 キスより抱きしめて いきなりやめないで 


For You

www.youtube.com・ヘッドフォンをして ひとごみの中に隠れると
 もう自分は消えてしまったんじゃないかと思うの
 自分の足音さえ消してくれるような音楽
 ケンカのことも君をも忘れるまで踊っていたい
・慣れてるはずなのに 素直になれるのに
 誤解されると張り裂けそうさ
・I want you make you cry
 傷つけさせてよ 直してみせるよ 

 

Wait&See

www.youtube.com・だって「つまずきながら」って 口で言うほど
 楽じゃないはずでしょ

・どこか遠くへ逃げたら楽になるのかな
 そんなわけ無いよね どこにいたって私は私なんだから


はやとちり

HAYATOCHI-REMIX

HAYATOCHI-REMIX

  • provided courtesy of iTunes

 ・「勝てないような気がした オマエはいつも強いし 泣かない」
 それは君の勘違い

・夢から覚めた後また眠りたいよ
 現実主義者には分からないだろう 


タイム・リミット

www.youtube.com・傷つき易いまま オトナになったっていいじゃないか
 タイム・リミットのないがんばりなんて 続かないよ 


蹴っ飛ばせ!
・間違いだらけのこの夜にゃ あいにく傘が似合う

・うしろめたさで胸がノドまで満たされちゃう
 悪気の無さが玉に傷

・勝手な年頃で ごめんね

 

言葉にならない気持ち
・足元でまわる地球が 少しかたむいたような気がして
 思い出せないのに忘れたくない夢を見てる

 

Parody

Parody

Parody

  • provided courtesy of iTunes

 ・深夜放送 テレビが青い目で私を見てる
 いくらチャンネルを変えても その視線を振り切れずにいる

・冷蔵庫の中は 何度覗いても同じ返事 聞きなれた返事

・みんなで同じ方向へ向かってく高速道路
 ただの偶然なんだよ 道が別れる時は突然

・これも多分Parody きっと他人にはfake story
 自分の靴しか履けない それで歩けるんだからいい 

 

サングラス
・涙の跡をサングラスで隠すたびに
 少しずつ強くなれるって信じてた
 そんなのおかしいって気づきだした

・同じ立場じゃなきゃ 分かってあげられないこと
 神様 ひとりぼっち? だから救える

・こころにかざし合う影だけで触れ合える
 誰かが 私にもいる 今日めぐり逢う

 

ドラマ
・明日までの永遠と呼べばいいだろう 

 

DISTANCE ※動画はFINAL DISTANCE

www.youtube.com

・無理はしない主義でも 君とならしてみてもいいよ 

 

 

名盤。歌詞だけで言っても全体的にFirst Loveより少し大人になっていて、自分を客観視できてるし、ちょっと哲学的な素養なんかも感じさせ、人と駆け引きすることも覚えている印象がある。強がりだけど諦観に溢れた、気だるい今時の少女の感性が表れている。『Addicted to you』はデビューシングルの『Automatic』の次に売れた怪物的ヒット曲だが、そのほかの曲も全部別々の方向性でレベルが高い。

キムタク主演ドラマ「HERO」の主題歌にもなった『Can You Keep A Secret?』には、宇多田が公式Webサイトでこの和訳タイトルを考えていて、「まあ直訳で『秘密守れる?』かなあ…」とかぼやいてたけど、とあるファンが「『誰にも言わない?』とかどうですか」と提案して、その訳のオシャレぶりに宇多田が感動してた。個人的には『Parody』『はやとちり』『For You』あたりが特に好き。

 

2002年(19歳) DEEP RIVER

Deep River

Deep River

  • アーティスト:宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2002/06/19
  • メディア: CD
 

 
www.utadahikaru.jp

ペース早く、翌年発売。タイトルは遠藤周作の『深い河』からインスピレーションを受けている。宇多田ヒカルは読書家で、今は知らないけど公式サイトの自己紹介でも「いつかは小説を書きたい」とか書いてた時期があった。『深い河』なんて冠するだけあってテーマは重く文学的で、ジャケット写真もいかにもな感じ。小説自体は人間の業を浄い呑み込むガンジス川を舞台に日本人とキリスト教の確執や融和を描いた作品。私が気づいていないだけかもしれないが、小説と曲にはそんなにガチガチの関連性はなく、イメージを拝借した程度だと思う。

宇多田ヒカルは特定の宗教には帰依してないはずだが、国という言わばひとつの宗教にも馴染めないタイムだろう。幼い頃から主に日本とアメリカを親の都合で連れ回されていた生い立ちが要因だろうけど、「どこに行っても自分はアウトサイダーだと痛感させられる。でもそれが自分の強みだとも思っている」と本人もたびたび語っている。

 

www.youtube.com

・どんな時だって たった一人で 運命忘れて 生きてきたのに
 突然の光の中、目が覚める 真夜中に

・うるさい通りに入って 運命の仮面をとれ

・先読みのしすぎなんて意味のないことは止めて
 今日はおいしいものを食べようよ
 未来はずっと先だよ 僕にも分からない

・もっと話そうよ 目前の明日の事も
 テレビ消して 私のことだけを 見ていてよ

 

traveling

www.youtube.com

・風にまたぎ月へ登り 僕の席は君の隣
 ふいに我に返りクラリ 春の夜の夢のごとし

・みんな躍り出す時間だ
 待ちきれず今夜 隠れてた願いがうずきます
 みんな盛り上がる時間だ
 どうしてだろうか 少しだけ不安が残ります

 

SAKURAドロップス

www.youtube.com

・好きで好きでどうしようもない
 それとこれとは関係無い

 

A.S.A.P
・信号待ち 風が止んだら 急に不安になった
 交差点を過ぎた辺りで 急に会いたくなった

・狼少女の結末を 救ってハンター
 声がもう届かなくなる直前

 

Letters

Letters

Letters

  • provided courtesy of iTunes

 ・ああ 花に名前を 星に願いを ああ 私にあなたを
 ああ この窓辺に飾られていたのは いつも置き手紙
 ああ 少しだけでも シャツの上でも ああ 君に触れたいよ
 ああ 憶えている最後の一行は
 「必ず帰るよ」

 

幸せになろう
・幸せになろう オフィシャルな野望 明日は今日よりも…

・その続きを知りたくて賢者を訪ねた
 すると彼は言いました
 「教えない」

・待ち合わせしよう 飛び箱の向こう 両手でしっかりと…

 

嘘みたいなI Love You

嘘みたいなI Love You

嘘みたいなI Love You

  • provided courtesy of iTunes

 ・見渡す限り広がる嘘の咲かない草原を
 夢の中で見たことがある そこで君を待ってる

・線路沿い走り出す影に振り返る
 あの日君が言った I love you
 追いかけちゃうよ ずっとずっと

 

東京NIGHTS
・TOKYO NIGHTS 原始時代からずっと
 光を分かち合い 燃え続ける

・隠しておきたい 赤ちゃんみたいに素直な気持ちは
 ビルの隙間に
 月など要らない お母さんみたいに優しい温もり
 街の明かりに

 

プレイ・ボール
・祭りの音が野生呼び覚ます 涼しい夜に熱を注ぐ
 流行りの歌が私かきたてる sounds like "play ball" 勝負どころ

 

Deep River

www.youtube.com

・剣と剣がぶつかり合う音を知る為に託された剣じゃないよ
 そんな矛盾で誰を守れるの

・全てを受け入れるなんて しなくていいよ
 潮風に向かい鳥たちが今 飛び立った

 

 

文学的に開花したアルバム。言葉のセンスにスリルがある。でも今見ると『Deep River』の「剣と剣が〜」のあたりはBLEACH彷彿とさせられて、全然関係ないのにややウケてしまうな。『Letters』では「ああ 〇〇に△△を」というフレーズの連呼があり、〇△の部分に花とか名前とか星とかまあ詩的なワードを当てはめて繰り返されるんだけど、その最後に「私にあなたを」という直球の肉欲的な表現を出してくるところが上手い。宇多田ヒカルは恋愛ソングの体で家族愛や友情を歌っていることが多いが、Lettersもその一つだと本人から明言されている。これは地方回りで置手紙が多かった母親・藤圭子の歌だそう。そう思うと切ない。

『光』は紀里谷和明(映画監督)との結婚直前の幸せ真っただ中の曲。歌詞にある「ワンシーンずつ撮って」とか「私のシナリオ」とかも、紀里谷のことか…って思わされる。自身の名前をタイトルにするだけあるシンボリックな曲でファン人気も高い。それにしても19歳で結婚って生き急いでるよね。あと『SAKURAドロップス』のPVの宇多田、美人。

 

 

2004年(21歳) EXODUS

EXODUS

EXODUS

  • アーティスト:Utada
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
  • 発売日: 2006/09/20
  • メディア: CD
 

 Utada名義も書く。21歳にして満を持しての全米デビューなんだけども、なぜか全曲マニア向けでファンも困惑。でも今まで日本という柵のせいで出来なかった自分の本当にやりたい表現に自由に挑戦できたアルバムなんだろうなというのが強く感じられ、挑発的で好き。

アルバムタイトルの「EXODUS」は旧約聖書上の物語「出エジプト」を指しており、虐げられていたイスラエルの民を率いてエジプトを出たモーセ達の苦難の放浪を2004年現代の自分たちに重ね合わせたもの?かと思われる。もっと勝手に推測すると、宇多田個人の「親離れ」「肉親への精神的決別」の意味もこもっているんじゃないか。

全曲英語詞で、歌詞カードでは全て新谷洋子さんが和訳しているが、ここではワンフレーズだけということで、自分で訳して併記する。

 

EXODUS '04

Exodus '04

Exodus '04

  • provided courtesy of iTunes

 ・Daddy don't be mad that I'm leaving  お父さん、私出てくけど怒らないでね
 Please let me worry about me 自分のことを考えたいの
 Mama dont' you worry about me お母さん、心配しないで
 This is my story これは私の物語だから

 

Easy Breezy
・You came and went and left my house 来て見て去って、そのまま君は帰らなかった
 Like a breeze just passing by まるで吹き抜けるそよ風みたい
 Konnichiwa, Sayonara コンニチハ サヨウナラ
 'Twas nice of you to stop by 「私に足を止めてくれてありがとう」
 Would it amuse you if I told you that I... こう言えば君は面白がるのかな

・You're easy breezy and I'm Japanesy 君は無責任なそよ風で、私は手軽な日本人
 Soon you'll mean exactly nothing to me もうじき私も君のことなんて忘れるよ 
 Does that mean anything to you それすら君にはどうでもいいか

 

Hotel Lobby

Hotel Lobby

Hotel Lobby

  • provided courtesy of iTunes

 ・In the city, the town, and the household 都市で、町で、そして家庭で
 So many things go unreported あらゆることが報告されないままだ
 So many things her eyes have seen, あらゆることが彼女の目の前を通過する

・Meet me in the hotel lobby ホテルロビーで会いましょう
 Everybody's looking lonely 誰もが皆孤独に見える
 Catch me because I think I'm falling 落ちてく私を捕まえて
 I'll be waiting in the mirrors of the hotel lobby ホテルロビーの鏡で待ってる

 

Kremlin Dusk
・Born in a war of opposite attraction 相反する力の諍いの中で生まれた
 It isn't, or is it a natural conception これは本当に自然の摂理?
 Torn by the arms in opposite direction 両腕を掴まれて引きちぎられた
 It isn't or is it a Modernist reaction これがモダニスト的な反応?

 

You Make Me Want To Be A Man


Utada - You Make Me Want To Be A Man

 

・ The thunder and the rain called you and you came  雷雨の時には来てくれた
 We didn't need to say much to communicate 私達に言葉なんて不要だった
 Now it's different, 99% is misinterpreted 今は違う 99%が誤解される

・I really wanna tell you something,  本当は言いたいことがある
 but I can't  You make me want to be a man でもダメ 君といると男になりたくなる
 Arguments that have no meaning 不毛な議題でしょ
 This is just the way I am 私は私でしかないのに
 You really wanna tell me something,  君も言いたいことがあるでしょう
 but you can't  でも言えない
 You make me what to be a man 私を男にしようとしてる

 

About Me
・What if I don't want a baby yet まだ子どもはいらないと私が言ったら?
 Is it okay if I'm not cute and naive かわいげなくて、繊細でない私も平気?
 Up and down 私たち今は良くても
 and down down down we go これから先は落ちるしかない

・Right now you're sure that you love me 今は私を好きだと言うけど
 But are you really ready to know more about me 言えなくなったらどうするの?
 Up and down and down, 'round and 'round and 'round 上がって落ちて回り回って
 Where do we go 一体どこに行っちゃうんだろ

 

 宇多田ヒカル自体は有名だがUtada名義の曲となるとあまり人口に膾炙されていない。『You Make Me Want To Be A Man』『Hotel Lobby』『About Me』が特に好きだが、全曲個性・アクが強くて面白い。稲垣吾郎は『Hotel Lobby』が好きらしい。

 

 

英語詞曲ということでついでにここに書いておくと、Utada名義でのアルバム収録はないが『Blow My Whistle』や『Simple and Clean』なんかも良い。『Simple and Clean』は『光』の英語詞だけど内容は全然違って、『光』がカップルの幸せ絶頂期の曲なのに対して、こちらは別れを予期した二人を描いている。好きなのでここで紹介。

 

Simple and Clean

Simple And Clean

Simple And Clean

  • provided courtesy of iTunes

 ・Don't get me wrong I love you 誤解しないで、僕は君を愛してる
 But does that mean  でもそれって
 I have to meet your father? 君の父親に会わなきゃならないってことなのか?

・Hold me 抱きしめて
 Whatever lies beyond this morning この朝の向こうにどんな嘘が待ってようと
 Is a little later on 後になれば大したことない
 Regardless of warnings, 警告なんて聞こえない
 The future doesn't scare me at all 未来なんてちっとも怖くはない
 Nothing's like before 今までとは違うの

 

 

2006年(23歳) ULTRA BLUE

 

Ultra Blue

Ultra Blue

  • アーティスト:Utada Hikaru
  • 出版社/メーカー: Emd Int'l
  • 発売日: 2009/03/31
  • メディア: CD
 

当時23歳。今の自分と年が近いからかもしれないが、現時点で一番好きなアルバム。

離婚直後の曲が多いということもあって流石に内省的で鬱屈としていながらも、凛とした孤高の女性のムードが漂っている。カバー写真はどういう状態なのかよくわからないけど、目力強くて良いですね。

今の自分には青が似合うということでアルバム名にBLUEと入っているが、これだけだと変に悲観的で単純に聞こえるということで、突き抜けたような深さと明るさを併せ持つ形容詞ULTRAを頭に付与した模様。確かに語感が良い。BLUEって付けといて真っ赤の服(?)着てるのは謎。

 

COLORS

www.youtube.com

・オレンジ色の夕日を隣で見てるだけで
 よかったのにな 口は災いの元

 

誰かの願いが叶うころ

www.youtube.com

・みんなに必要とされる君を癒せるたった一人に
 なりたくて少し我慢し過ぎたな

・小さな地球が回るほど 優しさが身に付くよ
 もう一度あなたを抱き締めたい できるだけそっと

 

Be My Last

www.youtube.com

・母さんどうして 育てたものまで
 自分で壊さなきゃならない日がくるの?

・いつか結ばれるより 今夜一時間会いたい

 

WINGS
・あなただけが私の親友

・お風呂の温度はぬるめ あまえ方だって中途半端
 それこそ甘えかな

 

Passion

www.youtube.com

・前を向いてればまた会えますか

・昔からの決まり事を たまに疑いたくなるよ
 ずっと忘れられなかったの 年賀状は写真付きかな
 わたしたちに出来なかったことを とても懐かしく思うよ

 

Keep Tryin'

www.youtube.com

・十時のお笑い番組 仕事の疲れ癒しても
 一人が少しイヤになるよ そういうのも大事と思うけど

・月夜の願い 美しいものだけれど
 標的になって 泥に飛び込んで Lady,レッツゴー

・クールなポーズ決めながら 実を言うと戦ってた

・少年はいつまでも いつまでも片思い
 情熱に情熱に お値段つけられない

 

One Night Magic
・海底に絨毯をしいて 喋ろう
 人生短い 色とりどりの生物の舞い

・消えかかる音楽 乱れては揃う
 言葉に託せぬ 思いがあふれる
 揺らめいて光る 〇◇△
 途中で席を起つ フィナーレは見ず

 

Making Love

Making Love

Making Love

  • provided courtesy of iTunes

 ・友達にさえお世辞を言う世代 包み隠さずに見せるよ君だけに
 楽しくないのにフリはしたくない だってそんなの 疲れちゃうよ

・無情に過ぎゆく時間なら 親友は必要ね
 少し疲れて私たち growing up

・あなたに会えてなかったら 親友はいらないネ

・私を慈しむように 遠い過去の夏の日の
 ピアノがまだ鳴ってるのに もう起きなきゃ

 

This Is Love

www.youtube.com

・予期せぬ愛に自由奪われたいね

・なにか言いたいけど 次の瞬間 もう朝なの

・激しい雨に 鳴り止まない遺伝子
 Oh 咲かせてあげたいの
    運命の花を あてどないソウルの花を
 This is love, this is love

・悪い予感がするとわくわくしちゃうな

 

BLUE

BLUE

BLUE

  • provided courtesy of iTunes

 ・全然なにも聞こえない 砂漠の夜明けがまぶたにうつる
 全然涙こぼれない ブルーになってみただけ

・もう何も感じないぜ そんな年頃ね
 道化師のあはれ まわり出す照明

・もう一度感じさせて 技よりもハートで

・もう何年前の話だい? 囚われたままだね

・あんなたに何がわかるんだい?かまうのはなぜ?(さあね)
 恋愛なんてしたくない 離れてくのはなぜ? 

 

日曜の朝

・彼氏だとか彼女だとか 呼び合わない方が僕は好きだ
 なぞなぞは解けないまま ずっとずっと魅力的だった

・仕事なんてやめちゃって 君と平日午後水族館に行きたいなあ

 

海路
・もう一度 父と話したい
 晩年のある男の願い
 かくれんぼ 鬼は出てこない

 

 

全曲お気に入り。傷つき疲労した女性が薄暗い自室の隅で投げ捨てぼやいたような曲が多い。

全体を覆う暗い雰囲気とは裏腹にPV付のシングル曲が多く賑やかなアルバム。『Passion』のPVは中国で撮影され、大量のエキストラが出演している。『Keep Tryin』は宇多田ヒカルがいろんな職業のコスプレをしててちょっと面白い。

『Making Love』はたまに遠距離恋愛の曲だと言われ、そういう捉え方もありだろうけど、元々は遠くに引っ越してしまう親友に向けて書いた曲で、これは歌詞を読めば一目瞭然。ラストの「遠い過去の夏の日のピアノがまだ鳴ってる」というフレーズは、メロディーも相まって清潔で美しい。私はこの曲が全宇多田の曲の中で一番涙腺に来るのだが、実際宇多田もレコーディングの時に泣いてしまったとか。女友達という関係性の美しいところが詰め込まれていて泣けてくるんだよなあ。

 

2008年(25歳) HEART STATION

Heart Station

Heart Station

  • アーティスト:Utada Hikaru
  • 出版社/メーカー: Emd Int'l
  • 発売日: 2008/09/30
  • メディア: CD
 

 ショートカットになって少年ぽいクールなイメージに。この時の外見かなり好き。

前作のULTRA BLUEはどこまでも内省的だったが、HEART STATIONにはそれを蹴散らすような外向性・社会性がある。プロデューサーの三宅さんも「これまでは特定の人に向けて歌っていたのが、不特定多数の誰かに向けて歌うようになった」転換点として語っている。確かに全然違う。根本的なところは変わってないが、音も歌詞も飛躍的に軽やかになって驚かされた。軽すぎて最初はいまいちピンと来なかったが、何度でも聴きたくなるスルメ曲が多い。

 

ぼくはくま

www.youtube.com

・ライバルは海老フライだよ

 

Kiss&Cry

www.youtube.com

・不良も優等生も先生も 恋に落ちれば同じよね

・被害者意識って 好きじゃない
 上目遣いで誘って 共犯がいい

・あきらめないで (you are my)
 笑い飛ばしてがんばれ (natural high)
 あとはしょうがない kiss&Cry

 

Beautiful World

www.youtube.com

・言いたいこと言えない 根性無しかもしれない
 それでいいけど

・僕の世界消えるまで会えぬなら
 君の側で眠らせて どんな場所でも結構
 Beautiful World 儚く過ぎて行く日々の中で
 Beautiful boy 気分のムラは仕方ないね

 

Stay Gold
・あなたの瞳の奥に潜む少年
 私の本能をくすぐって止まない

・無邪気に笑ってくださいな いつまでも

 

Fight The Blues
・We fight the blues くよくよしてちゃ敵が喜ぶ
 男も女もタフじゃなきゃね

・こらえた涙は ぼくの一部

 

虹色バス

虹色バス

虹色バス

  • provided courtesy of iTunes

 ・小さなことで 胸を痛めて
 Everyody feels the same Everyody feels the same
 虹色バスで 虹の向こうへ
 みんなを乗せて 青空PASSで

・誰もいない世界へ 私を連れて行って

 

HEART STATION

www.youtube.com

・罪びとたちのHeart Station
 神様だけが知っている 秘密

 

テイク5
・会わないほうが ケンカすることも
 幻滅し合うこともない

・コートを脱いで中へ入ろう
 始まりも終わりも無い 今日という日を素直に生きたい

 

Prisoner Of Love

www.youtube.com

・I'm gonna tell you the truth
 人知れず辛い道を選ぶ 私を応援してくれる
 あなただけを友と呼ぶ

・強がりや欲張りが無意味になりました
 あなたに愛されたあの日から

 

Celebrate
ターコイズブルーの夜 ぼくたちのためにある

・光を浴びて 緑の海に飛び込んだら なんにでもなれる
 ドンペリ開けて 肺までゴールドに染まったら 女王様気分

 

社会人の感性になっている。日清、エヴァ花男、ラストフレンズ…PVもタイアップ先の映像が多いけど、見事にあちらの世界観に溶け込んでいて、アーティストというか労働者としてのプロ意識が洗練されているのがわかる。

特にエヴァ主題歌の『beautiful world』は、宇多田ファンとしてはちょっといつもの宇多田らしくないと感じるくらいエヴァに寄せており、宇多田の曲というよりシンジ君の曲になっている。一方で、プロとしてある程度解き放たれて『ぼくはくま』なんていう今までなら絶対考えられない趣味に走った自由な曲も作るようになっている。

良い感じで自我が切り離されて、成長した目で社会を見据えている姿が浮かぶ。

でもやはりどの曲にも底に暗い沈殿物が敷かれているような濁りがある。『虹色バス』や『テイク5』なんか、私もかなり好きだが、こんなに聴いてて死にたくなる曲も珍しい。宮沢賢治に影響を受けているらしい。

ラストフレンズとのタイアップで上野樹里とも接点があったらしく、上野樹里は『テイク5』が一番好きとのこと。

 

2009年(26歳) This Is The One

This Is The One

This Is The One

  • アーティスト:Utada
  • 出版社/メーカー: Umgd/Mercury
  • 発売日: 2009/05/11
  • メディア: CD
 

宇多田ヒカル、痩せる。宇多田ヒカルは結構体重の増減が激しく、デビュー当時はガリガリだったけど2003年あたりからプクプクし始め、それから微増微弱を繰り返し、ここに来て激痩せ。以降、現在まで痩せている。

まあそれはそれとして、英語詞アルバム第2弾。ライトで聴きやすく、初めての人が手に取るのに最適、みたいな完成されたアルバムで、自身も「Utadaのデビューアルバムのような気持ちで作った」と言っている。遊び要素も強く、「Automatic PartⅡ」なんてタイトルの曲があったりする。以下、歌詞と勝手な和訳。

 

Merry Christmas Mr.Lawrence - FYI

Merry Christmas Mr. Lawrence - FYI

Merry Christmas Mr. Lawrence - FYI

  • provided courtesy of iTunes

 ・You know I, I'm gonna be yours tonight わかってるでしょ、今夜私はあなたのもの
 We're gonna...Ooh aah 私たち…そう
 FYI, we're gonna be up all night それにね、今夜は眠らせるつもりない
 I'll see you later, call me また後で。電話してね
 You know my number 番号は知ってるでしょ

 

Apple And Cinnamon
・I can't believe  今でも嘘みたい
 that you and me were falling out of love 僕たちがもう他人だなんて 
 And everybody used to be so envious of us 誰もが二人を羨んだ
 Chemistry like apple and cinnamon 林檎とシナモンみたいな化学反応
 What we had was just to good 僕たちは相性抜群だったんだ
 good to last 抜群すぎて、ダメだった

 

Taking My Money Back
・Now I finally see you were using me ようやくわかった 私あなたに利用されてた
 And I'm taking my money, my money, my money back だから自分のお金を取り戻す

・I'm singing ooh ooh ooh, and ah ah ah 私は「ああ」って歌うしかできない
 You know I really loved you boy 知っての通り私あなたに本気だった
 Ooh ooh ooh, and ah ah ah ああ ああ
 What a waste of a man so fine  良い男のなんて無駄遣いなの

 

This One(Crying Like A Child)
・We should get back on the road 最初の道に戻りましょう
 Like Simon and Garfunkel サイモン&ガーファンクルみたいに
 Let's get married 結婚しましょう

 

Me Muero

Me Muero

Me Muero

  • provided courtesy of iTunes

 ・Oh my lover's gone away, gone to Istanbul 愛する人イスタンブール
 Light as a feather 羽のように軽く飛び去った
 I lie in my bed and flip through tv channels  ベッドに横たわってチャンネルを回す
 Eating Godiva  I'm smoking my days away  ゴディバつまんで煙草くわえて
 reading old emails In my old pajamas 昔のメールのスクロール パジャマはよれよれ
 What a day, me muero, muero, muero なんて日なんだろ、死のうかな

・Now and then I'm suicidal  時々自殺を考える
 Flirting with a new temptation 新しい誘惑に手を出そうかな
 Overdose overreaction 薬物の過剰摂取 過剰反応
 Call it what you may 何とでも言え

 

なぜか英語詞になると失恋(遊ばれたとか自分が浮気したとか)の曲ばかりになる。よくわからないけど洋楽ってそういうもんなんだろうか。

『poppin'』とかも好きだが、訳そうとすると難しい。キャッチーな曲が多い中、Me Mueroは退廃的で生活感のある干物女の歌として異性を放っていて面白い。『Merry Christmas Mr.Lawrence』は坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』をサンプリングしている。

 

2010年(27歳) Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2

Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2

Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2

  • アーティスト:宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: CD
 

「人間活動宣言」を経て、活動休止前の最後のアルバムを発売。

活動休止発表時は「人間活動」というワードの面白さでメディアにいろいろ取り沙汰されたけど、休止して良かったと思う。15歳から大人だらけの音楽の世界の第一線で働き続けた人なんだから、どこかで休むくらい良い。自分の力で稼いだお金で休むんだから誰にも文句を言われる筋合いないし。一ファンとしても特に大きなショックはなかった。

ベストアルバムの一角に5つの新曲を収録。どの曲からも「これから内にこもるぞ!」という気概が感じられる。

 

Goodbye Happiness

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・夢の終わりに待ったは無し
 ある日 君の名を知った

・何も知らずにはしゃいでた あの頃へはもう戻れないね
 君のせいだよ

 

Hymne à l'amour ~愛のアンセム
・あなたのためなら なんだって出来るわ
 Si tu me lee demandis
 あなたの好みの色に 髪の毛を変えてもいいわ

・いつか神様があなたを 遠くへ連れて行っても
 かまわない 私も逝くから

 

嵐の女神

嵐の女神

嵐の女神

  • provided courtesy of iTunes

 ・お母さんに会いたい

・こんなに青い空は見たことがない
 私を迎えに行こう お帰りなさい
 小さなベッドでおやすみ

 

愛のアンセムは仏のシャンソン歌手エディット・ピアフの1950年代の曲『愛の賛歌』のカバー。フランス語の発音が上手い…気がする。

『Goodbye Happiness』のPVは自身が監督を務め、過去作品のパロディなんかもして楽しいPVになっている。私これで一息ついて休みます!という感じでどこか羨ましい。

『嵐の女神』はあの宇多田ヒカルがド直球に母・藤圭子への愛と感謝を伝える曲で、ファンとしては非常に感慨深いものがある。飾らず皮肉もユーモアもない、一人の女の子としての姿が浮き彫りになっていて、自分の母親は藤圭子とは似ても似つかないのに共感して泣きそうになる。藤圭子は客観的に見たら決して理想の母親とは言い難い人のように思えるけど、宇多田ヒカルにとってはたった一人のお母さんで、自分はその人から生まれたんだもんな。生前から世間に非難されること多かった放蕩ママだけど、娘の宇多田ヒカルはどんなにお母さんに傷つけられてもお母さんを庇おうとしていたから。宇宙みたいな良い曲。

 

2016年(33歳) Fantôme

Fantôme

Fantôme

 

時代は下り、2016年。ついに宇多田ヒカルも33歳子持ちである。ジャケ写はフランス人写真家のジュリアン・ミニョーが撮影。オシャレでかっこいい。あと前髪揃いすぎ。

長かった活動休止期間、母親の自殺・結婚・出産など、自分たち大衆が知りうる範囲でも重く険しい出来事が立て続けに起こったと思うが、なんやかんやで音楽活動再開したので安心。曲もだけど特に歌詞が大きく変わる。完全に熟女の重い言葉になっている。単なる疲れでなく、母性の疲れが一面に漂っている。

これまで宇多田ヒカルが詞を書く時に託してたと思われる「暗くて皮肉屋で投げやりな少女」みたいなキャラクターが好きだった自分としてはやや寂しいが、その部分も決して消えてはいないし、新たな魅力も出てきたということで、そこまでショックではない。何と言ってもFantôme、ド名盤だから…。

 

 

 

真夏の通り雨

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・今日私は一人じゃないし それなりに幸せで
 これでいいんだと言い聞かせてるけど

・あなたに身を焦がした日々 忘れちゃったら私じゃなくなる

・ずっと止まない止まない雨に ずっと癒えない癒えない渇き

 

俺の彼女

俺の彼女

俺の彼女

  • provided courtesy of iTunes

 ・カラダよりずっと奥に招きたい 招きたい
 カラダよりもっと奥に触りたい 触りたい

・俺には夢がない 望みは現状維持
 いつしか飽きるだろう つまらない俺に

 

二時間だけのバカンス

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・家族の為にがんばる 君を盗んでドライブ
 全ては僕のせいです わがままにつき合って

 

人生最高の日
・どんな服着て なんて言うかなって
 登場シーン 脳内再生

・歓声にも罵声にも拍手喝采にも 振り返んない
 一寸先が闇なら 二寸先は明るい未来
 シェイクスピアだって驚きの展開 That's life

 

忘却

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・熱い唇 冷たい手 言葉なんか忘れさせて
 強いお酒にこわい夢 目を閉じたまま踊らせて

 

ともだち
・友達にはなれないな にはなれないな
 なぜならば触りたくて仕方ないから

・恥ずかしい妄想や 見果てぬ夢は
 持っていけばいい 墓場に

 


・転んでも起き上がる 迷ったら立ち止まる
 そして問う あなたなら こんな時どうする

・一人で歩いていたつもりの道でも 始まりはあなただった
 It's a lonely road  But I'm not alone
 そんな気分

 

荒野の狼

荒野の狼

荒野の狼

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 ・誰にも消せない痛みを 今宵は私に預けなさい
 荒野の狼 吠えても 朝が怖い

・首輪つながれて生きるのはご免だね
 愛情と引き換えに名前なんかいらない

・好きだ それだけで引き留めちゃダメだよね
 永遠の始まりに背を向ける 私たち

 

 

活動再開にふさわしい圧巻のアルバムで、化け物みたいな曲ばかり出てくる。

自分の中で熟成された感情や思索を奇をてらわないまっすぐな日本語で突きつけている。『道』なんかは決して重くない曲なのに心に深く突き刺さる。

また『ともだち』『俺の彼女』『荒野の狼』『人生最高の日』なんかに顕著だが、曲を完全なフィクションとして小説みたいに仕立て上げるようになった。この4曲かなり好き。荒野の狼で、「好きだ 」って混じり気なくズバッと言ってのけてドキッとさせた後に「それだけで引き留めちゃダメだよね」って背を向けるところが宇多田ヒカルの伝統芸という感じで良い。

『二時間だけのバカンス』は母である2人ならではの曲で、良いですね。「全ては僕のせいです」が林檎のパートなのは若干グッとくる。素朴な感想として、2時間で済むのすごい偉いと思うが本当に2時間で済んでるのかな。

『俺の彼女』はテーマとしては『You Make Me Want To Be A Man』と通底していると思うが、ちゃんと男目線の詞を最後に持ってくるところが成長というか、男女両者を解した大人の女性ならでは。

PV付の曲も多いが、どれもやたら陰影深くなっている。個人的な好みではULTRA BLUEが一番好きなアルバムだけど、完成度で言ったらFantômeが怪物的。音楽の素養はないけど、誰でもわかるすごさ。

 

 

2018年(35歳) 初恋

初恋

初恋

  • アーティスト:宇多田ヒカル
  • 出版社/メーカー: ERJ
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: CD
 

出たばっかりの最新アルバム。思っていたよりスパンが短くて驚いた。

アルバムとしては初の日本語タイトルで、後付けらしいがデビューアルバム「First Love」のオマージュよろしくジャケ写もドアップ、眉毛も太い。

二度目の離婚を終え、女性の深い疲れを感じさせる曲が多く、聴くとお腹いっぱいになる。離婚直後に『初恋』という曲を書くのだから何だか凄みがあるし、そういう風にしか生きれないのだろうか。10歳くらい年下の私が見ても「落ち着けよ」と思う時がある。

 

Foevermore

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・友達は入れ替わり服は流行り廃る
 私を私たらしめるのは
 染み付いた価値観や身に付いた趣味嗜好なんかじゃないと
 教えてくれた

・愛してる、愛してる それ以外は余談の域よ

 

Too Proud
・「おやすみ」のあと向けられる背を
 見て思い出す動物園の動物

 

あなた

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・あなた以外なんにもいらない 大概の問題は取るに足らない

・肌の匂いが変わってしまうよ

・あなたの生きる時代が迷いと煩悩に満ちていても
 晴れ渡る夜空の光が震えるほど 眩しいのはあなた

・終わりのない苦しみを甘受し Dariling 旅を続けよう
 あなた以外帰る場所は 天上天下 どこにもない

 

Play A Love Song
・僕の親がいつからああなのか知らないけど
 (大丈夫) 君と僕はこれからも成長するよ

・落ち着いてみようよ一旦
 どうだってよくはないけど 考え過ぎているかも
 悲しい話はもうたくさん 飯食って笑って寝よう
 Can we play a love song?

 

誓い
・今言うことは受け売りなんかじゃない
 約束でもない 誓いだよ
 嘘つきだった僕には戻れない
 朝日色の指輪にしよう

 

初恋

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・もしもあなたに出会わずにいたら
 誰かにいつか こんな気持ちに
 させられたとは思えない

・欲しいものが手の届くところに見える
 追わずになんていられるわけがない

 

Good Night
・ああ 無防備に瞼閉じるのに
 ああ 夢の中に誰も招待しない君

・この頃の僕を語らせておくれよ
 この頃の僕を、この頃の僕を

 

夕凪
・こんなに穏やかな時間を
 あなたと過ごすのは 何年振りでしょうか

・真に分け隔てなく 誰しもが
 変わらぬ法則によります
 急がずとも必ず

 

嫉妬されるべき人生

嫉妬されるべき人生

嫉妬されるべき人生

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 ・不気味にとめどなき 何かが溢れ出し
 長いと思ってた人生 急に短い

・今日が人生の最初の日だよ
 五十年後でも あなたを見つめて
 誰よりも幸せですと
 嫉妬されるべき人生でしたと

・あなたに先立たれたら あなたに操を立てる
 私が先に死んだら 今際の果てで微笑む

 

 

傾向としてはFantômeを継承しつつ深化する詞が奥深い。『あなた』は恐らく宇多田が息子さんのことを想って書いた詞なのではないかと思うけど、母が子について「あなた以外帰る場所はどこにもない」って言っているのがすごく好き。子どもが親を「帰る場所」と表現することはよくあるけど、逆はあんまりない。でも確かにお互い様なんだろうなと思って。『too proud』はセックスレスの男女を歌った曲で、乾いたエロティックが充満している。倦怠期で情とプライドだけが残った男女の擦れ合いの妙が見事に表現されていて、貧しい表現だけどなんというかとても映画的だなと思う。

『夕凪』筆頭に、死にたくなる曲が多い。宇多田ヒカルは20歳になった時のインタビューで「自分が20まで生きると思わなかった。なんか死んでそうじゃん」と言っていて、まあすごいわかる気はしたんだけど、その後ずっと死を思わせる曲を多産しつつも結局死ぬことなく人として真っ当にもがき苦しみ、今こうして立派に年を重ねて逞しく良い歌作り続けているのを見ると、エヴァ最終話みたいなノリで祝いたい気持ちになる。若い頃に死ねば物語は完成するけど、物語で終わらずに生々しく実在し続けることにこそ作家としての熟成がある。「謎解きはまだ終わらない」のだ。

 

 

………………

 

という訳で、全アルバム終了した。

 

ちなみに現時点で自分の好きな曲10選を敢えて選ぶとしたら、

『BLUE』『B&C』『Making Love』『荒野の狼』『Parody』『嫉妬されるべき人生』『Letters』『テイク5』『俺の彼女』『はやとちり』

 あたりになるけど、その時々によって変わるし順位ってのは難しい。

 

 

こうして改めて考えてみると、自分は宇多田ヒカルの詞の「寄り添いすぎないニュートラルさ」や「断定しない曖昧さ」が好きなんだと思う。

 

宇多田には『Fight The Blues』とか励ましてくれる曲も結構多いけど、それも「くよくよしてちゃ敵が喜ぶ」みたいな終始他人目線からの一般論で励まされる。決して踏み込んでこないどこかの他人。『荒野の狼』でも「誰にも消せない痛みを今宵は私に預けなさい」って言うけど、つまり今日限定で、これがいつもだったら預かってくれない。ちょっと突き放されてるこの感じがちょうどいい。そんなに一体化されても「お前に何がわかるんだよ」って思うし。

 

表現の曖昧さについては昔からよく言われているが、わりとストレートな表現が増えている最近でも当てはまる。一旦煙に巻く感じというか。例えば『あなた』では「あなた以外なんにもいらない」とか言ってくれるけど、すぐ「大概の問題は取るに足らない」って付け足される。それつまり「結局あなたがいても解決しない問題はある」ってことで、万能じゃない。ずっと誰にも癒せない託せない自分のゾーンというのがある。解決するのはあくまで大概。言い切らないっていう、現実的で、ちょっと投げやりなところがある。

 

素直じゃなくて、いつも疑うような眼をしている。私は『嫉妬されるべき人生』とか大好きなんだけど、この曲の何が好きって、愛情を不気味なものとして表現しているところだ。一般的にはとかく柔らかくて温かくて望ましいものとして描かれがちな「愛」という揺らいだ感覚を、「底知れず正体不明な凍てついたもの」として歌っている。だって好きな男の赤ちゃん抱きながらほく笑んでる女の姿が浮かぶもん。でもそれだって愛情に違いないよねというか。こういう感性にとても共感する。

 

染まらない中性性というのかな、宇多田ヒカル自身が言うように「アウトサイダーとしての普遍性」があるのが、他の人にない魅力なんだろうと思う。月並みだけど簡単にまとめです。

 

 

 

(2020.3.12 追記)

この記事これまでも地味にちびちび修正してたんですが、目次に当時の宇多田の年齢も付してみた。こうして見ると案外腑に落ちるというか、人並みの成長してますよね。宇多田ヒカルはよく早熟と言われてるし、確かにデビュー当時から表現力は完成されてると思うけど、成長過程という点から曲の変遷を辿るととてもど真ん中ストレートの普通の女性の人生を生きているように見える。

 

10代の頃はとにかく暗くてイキッてるけど、10代後半から20代前半にかけてはその暗さのルーツやあり方を本人が内面化し始める。25歳になると生まれ変わったように社会化されて自我がまとまり、以後は荒波のような事件や環境に揉まれながら、自分を納得させる生き方を追い求める。それはすごく普通で普遍的な人生の流れと思う。

上でも言ったように宇多田ヒカルって確かに世間的にはアウトサイダーなんだけど、それでも道の真ん中を歩こうとする誠実さがあるように感じる。「丁寧に生きる」って本当はこういうことなんでないかな。無印良品買いまくって「丁寧な生活」なんてドヤ顔してる人に伝えたい私は…。

 

自分自身25歳になってから急にいろいろ"キた"感があり、HEART STATIONの頃の心性がすごくしっくりき始めたので、ちょっと追記した。