取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

宇多田ヒカル『PINK BLOOD』

 宇多田ヒカルの新曲フルMV出ましたね。


www.youtube.com

 2020年以降の曲だと今のところ1番好み。ここ2年弱のリリース曲にはあまりしっくりこないことが個人的には多かったから、その反動もあってPINK BLOODは余計に良く感じた。私生活においてもここ最近停滞させてたいろんなことが一気に押し寄せてきて、人生に迷いすぎて脳がペースト状になって流出していたので、新曲への感じ入りもひとしおだった。そういうのもあるかもしれない。


 やはり宇多田ヒカルは根本的に普通の人で安心しますね。PINK BLOODでもすごく普通の、しかし真正直なことを言っていて安心した。彼女自身が果てに辿り着いて、かつ人にも伝えたいと心底思えた真実を歌詞にしているというのがわかる。表現においてそれが一番大事なことだなと自分も改めて思ったりした。
 …5年くらい前から一アーティストである筈の宇多田ヒカルが世間でやけに重宝、ありがたがられ始め、やれツイッターで小言を言えば「ヒッキーのありがたいお言葉」だの、やれインスタライブをやれば「宇多田ヒカルの言葉すべてが詩…」だの、と安直に持て囃すばかりになった大衆の風潮には「きっつー」と苦々しく思っていたが、とはいえ私自身は完全に宇多田にありがとうを伝えたい側の人間なので…。でもそれなりの熱量で追い始めてもう10年選手な訳だから、私にはありがたがる資格あるだろう。しかしたとえ心の内であろうととこういうマウントを取っている時点で死んだ方がいいのかもしれない。ちょっと死んできます。


 新曲でかなり強調されている「歌詞のブツ切り」は久しぶりに宇多田ヒカルの伝統芸冴え渡ってる感じだ。文節としては絶対に切るべき間ではないところでリズムを途切れさせたり、常識的にはとても文頭に持ってこないようなフレーズを入りに突然持ってきたり。音やリズムへの偏執というか、言語に対する闊達さ、拘りの無さというか。PINK BLOODだと『誰・にも・見せ/なく・ても・キレイ/なも・のは・キレイ』のリズム反復、過去の曲で言うとToo Proudの『おやすみのあと・向けられる背を・見て思い出す動物園・の・動物』とかも結構びっくりしたな。このへんはそもそもネイティブのバイリンガルだからというのもあるだろうし、新曲のインタビューで彼女が述べていたように普遍性に違和感を仕込ませる技でもあるんだろうが。ビルボードのインタビューでは『私が作り出すものは私自身の自己の反映です。そもそも作る「きっかけ」からそう。自分とは何かをもっと知ろうとする行為なんです。』というカッコイイことも言っていたなあ。


 宇多田ヒカルのような人を見ていると、普通の人であるって難しいよねとよく思う。普通であるために知識なんて要らないし、すごく感覚的な話ではあるんだけれども、感覚って信頼していてもいつのまにか自分から離れて遠くに行ってしまったりする。私も自分のことつくづく真人間だと思ったりしてるけど、この前それを友達に言ったら「いや、真っ当ではなく真っ当の向こう側にいる。真っ当ビヨンド」と訂正された。その表現は非常に正鵠を射ている気がして流石友達ってすごいなと思ったけど…とにかく真ん中にいるってのはそれくらい均衡が難しいんだ。そういう難しいことをやってる、やれてるってのがわかるから、宇多田ヒカルを「良い」とか「凄い」とか私は思っている訳です。信者みたいにはなりたくないし、曲以外の部分は結局そこそこぶっ飛んだ人なのでそこは置いといての話だけども。


 3年前のブログ記事で好きな曲10選を挙げたけど、今ならこうかな。
『嫉妬されるべき人生』『俺の彼女』『Don't Think Twice』『DISTANCE』『はやとちり』『Simple and Clean』『Time Will Tell』『虹色バス』『Good Night』『あなた』


 ……いや新曲入ってないんかい! と自分でも思ったが、そこはやはり10年選手の部分が出る。でも久しぶりにかなり好みの曲だったな。MVで着てる白のドレスもよくわからんデザインだけど可愛くて良い。
 ただ私としてはもっとキャッチーで楽しい曲、もしくはもっと攻撃性のある曲をそろそろ出してくんないかなとも思うところ。