取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

『あずみ』ほか好きなマンガなど

 3年前くらいまで小学館の漫画アプリ「マンガワン」のユーザーだった。確かサービス開始から間もない頃に『モブサイコ100』の最新話を追うためにインストールしたのだが、マンガワンはモブサイコはじめ連載漫画のレベルが高い上に、往年の小学館名作漫画の再録も充実していたので、ほとんど無課金でかなり多くの漫画を読ませてもらった。自分の金では絶対に買いたくないゴミ漫画もいくつか読んである意味勉強になったし、普段積極的には手に取らないが読んだら面白い作品もたくさんあって楽しかった。自分では人並みに漫画を読んでいるつもりだったが、全然だなと思い知らされもした。
 連載漫画(当時)だと『モブサイコ100』がやはり抜群に面白いのと、『土竜の唄』『ケンガンアシュラ』『灼熱カバディ』『付き合ってあげてもいいかな』『てのひらにアイを!』あたりが好きで追っており、名作漫画だと『ブッダ』を小学生振りに再読したり、ほか手塚治虫作品や高橋留美子作品、懐かしの『ドラベース』なんかも楽しく読んだ。各話ごとにユーザーの感想が読めるのも好きな要素だった。
 ただ4年くらい経った頃に「このアプリ世の中を良くしてるのか?」との問いが自分の中に生まれ、長考(約10分)の末「総合的には良くしてない。Darknessが全てを呑み込んでいる」との結論に至ったので、集英社系が読めない点を除けば極めて優秀どころか最高峰の漫画サービスであると重々認めつつ、高潔な信念の下にアンインストールしたのである。


 前置きが長くなったが、そのように今は袂を分かったアプリケーションで読んだ漫画の中で私に一番、そして圧倒的に魂に響いたのが小山ゆう『あずみ』であり、近頃この漫画を電子でちびちび買い直している。ビッグコミックスで全48巻もあるため大人買いはちょっと躊躇われるのだが、いま読み返していてもやはり非常に胸を打つ傑作なので、完結まできちんと買う予定。


あずみ

 小山ゆう作品は同じくマンガワンで『お~い!竜馬』と『AZUMI』も読んだ。『お~い!竜馬』は面白いけど「原作:武田鉄矢」感が強すぎると言うか、いくらなんでも坂本龍馬が美化されすぎており、『AZUMI』も悪くはないが焼き増し感が否めない。やはり『あずみ』こそ同作者の最高傑作で間違いなく、これには世間的にもあまり異論はないだろう。
 この漫画の何が自分に感銘を起こすのか改めて考えると、やはり女性の実存の問題を軸にしているからと思われる。女性の人生を描く創作ってどうしても具体的な社会背景や制度の問題あるいは妊娠や結婚という「出来事」をベースに組み立てられがちで、その奥の実存の問題までスポットが当たり切らないことが多い。『あずみ』を読むまであまり明確に意識したことがなかったのだが、恐らく私はこのような女性の描かれ方に潜在的に不満――「この役、キャラ変わっても女性であれば成り立っちゃうじゃん」という互換性への反発心*1――があったようで、その点『あずみ』はあずみでなければ物語がまるで成り立たないが、それでいて女性および人間の普遍的な実存の問題を重視しているのが稀有だしすごく好きなのだ。
 作者の小山ゆうは男性であり、男性漫画家の御多分に漏れず主人公あずみもまた「オレ(作家)の考えた最高の女」そのもの。しかしあずみに関しては女性である私から見ても紛れもなく最高の女であり、女性らしさをその核に持った女性キャラクターでここまで魅力的なキャラクターは未だ見たことが無い。剣の天才であるに加えて内面的にも聖母・菩薩のようなキャラクターゆえ、ほとんど現実味はないが、それでもあずみの考えや行動、苦悩には非常に共感できるし、溌剌としていて、信じられないくらいにかわいいと思える。
 1話の衝撃的な展開にはやはりいつまでも違和感があるし、18巻以降はパターン化してくるので蛇足めいた印象もあり評価が下がるのも頷けるのだが、それでもやはり自分にとっては重要な作品。18巻までのエピソードは誇張なく粒揃いで、特に大阪城落城までの豊臣秀頼、そしてその後の家康暗殺から井上官兵衛との別れを経てあずみが本当に一人で出立するに至るまでの話の流れはあまりに素晴らしい。また今読み返していて、初読の時にはあまり記憶に残っていなかった倉石左近に「こんなにかっこ良かったっけ?」と驚いている。左近とやえちゃんのエピソードは歳を経ると染みてくるものがあるな。
 私は漫画であろうと重要なことは言葉で明言されたいタイプ*2なので、『あずみ』のように言葉に力がある漫画がとりわけ響くのだろう。同じタイプの人には強くお勧めするし、そうでない人にもお勧めする。個人的には好きな漫画トップ10に悠々とランクインする傑作。


ちなみに他の好きな漫画上位9作(順不同)↓


 ……一部思い出補正もある気がするが。
 ちょっと前から読み始めた沙村広明波よ聞いてくれ』もかなり好みだし、次点のONE(村田雄介)『ワンパンマン』『モブサイコ100』も傑作だしで、日本の漫画はもう群雄割拠だね。全体を見るとエンターテイメント性が高くわかりやすい物語ばかりが受容され、純文学が環境でも質でも劣勢に置かれている日本の現況に思うところは無きにしも非ずとはいえ、漫画だろうが小説だろうが良いものは良いしゴミなものはゴミ。純文学枠として扱われているものも私の感覚だとあまり純文学的ではない――冗長さや崇高さの欠片も無い――ことが結構あるので、もう混沌というかガラパゴスというか、枠に捉われてちゃ駄目なのかもしれない(?)。
 あとこの前海外漫画も触ってみるかと思ってジャン=ジロー(メビウス)の『ブルーベリー』も少し読んだところ、渋くてめちゃめちゃ面白かった。今Amazon見たら絶版で高騰しているのでこれは自慢です。



 以下脱線。
 最近私の好きなゲーム実況者が『デトロイト ビカムヒューマン』を実況しているのだが、このゲーム甚だ出来が良く面白そうなのでなんとかSwitchに移植してくれないかと地団駄を踏んでいる。キャラクターの表情や仕草が映画級に異常にリアルだと慄いていたら、モーションキャプチャーで実際の俳優を使って撮影しているのだな。顔にたくさんの点がついていて、ウェルベック服従』の表紙みたいになっている。


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*1:女性を無個性に描くのはまさに女性が「そう見られてきた」苦境を真摯に描こうとしているからこそだ、という理屈もわかるが、趣味の問題だ。…こういう嗜好が私の特権性の表れのような自覚もありつつ。

*2:とはいえジョジョまで行くとちょっとカロリー過多の感を覚える。