取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

最近読んだ漫画

薄れかけた記憶を掘り起こして感想。

MASTERキートンReマスター

 無印MASTERキートンは相当好きな漫画なのに、リマスターが出ているのを最近まで知らなかった。相変わらず安定していて良いね。だが復活シリーズ物の常として、結局のところ無印の方が完成度が高い――そもそも無印の完成度ありきで存在する作品になってしまうので、若干の蛇足感はやはり否めなかった。
 前作のラストが(諸問題により)わりかし突然だったのだから、その直後くらいの世界が見たかったかもな。というのも、前作では只管恰好よかったあのオールマイティーキートンが、なんと20年経ってもまだ博士号を取得できていないという本作の状況には聊か肩が落ちてしまったからだ。作品中ではキートンが未だに博士課程で燻っているのは常識に囚われない型破りな発想と権威に阿ない世渡り下手ゆえである、みたいに描かれているが、流石に無理がある。オールマイティーなのに本人が一番やりたい学者業だけはパッとしない、というのが元々キートンの魅力ではあったけど、ここまで来るとキートン、ほんとに学者として才能ないんだろうなって。てゆうかもっと本腰入れて勉強しろよと。
 まあそれはそれで恰好良さの代わりに新たな哀愁がプラスされた訳でもあるのだが、不自然なくらい狭量な日本人学者にキートンが正義の反抗をしてポストを失ったり、父であるキートンを学者として低く評価する夫が許せないことが原因で娘が離婚したりと、そういう作品がキートンを庇うような描写はちょっと寒いなと思った。前作では将来有望でかっこよかった主人公が、続編シリーズにおいては特に腐りもしてないけど普通に人生イケてない奴になってる、っていうパターンは金田一少年と同じだね。

虫と歌

 初・市川春子。『宝石の国』はアニメをちょっと見たことあるけど、私はアニメというものには8割方途中で脱落してしまう体質なので、『宝石の国』も例によって5話くらいでちょっとついていけない、もういい、となってしまった記憶がある。
 ただ、長編になるとついていけないが、これは短編なのであの独特の浮遊感も良い具合に心地よく楽しめた。読んでいてとても落ち着かず体の空気を抜かれたみたいにヘロヘロになるが決して不快ではない。ただ『星の恋人』が一番好みである一方で、『ヴァイオライト』はやはりもうついていけない、やり過ぎ、と食傷してしまった。「人間」と「人間が存在することによって存在することになった意志を持つ人外」の間の交流に似た契約関係、あるいは契約関係の中に発生する心の通いを描くのが非常に巧み。私の好みとは外れた絵だけど作風との相性は抜群で、作家性も確立している。自分はこういうタイプのこと絶対できないからそれは素直に羨ましい。

波よ聞いてくれ

 追って買ってるタイトルだが、9巻が出たため折角なのでこの機に感想をば。9巻はかなり良かった。この漫画は台詞回しが面白いのは誰もが褒めるところだろうが、登場人物にも展開にもリアリティーなぞ欠片もない漫画なのになぜかリアリティーショー的な舞台設定をやっていて、それが十分面白い上に説得力まで持っちゃっているのが相変わらず凄い。9巻では遂に瑞穂ちゃんに焦点が当てられているが、作品きっての人格者であり健気で行儀の良い瑞穂が、男性社員に過保護な扱いをされたことにピキッと顔を歪ませるコマが一番良かった。良い顔してたし、瑞穂の気持ちもわかれば心配する男性社員の気持ちもわかる。終盤、ミナレと茅代さんが瑞穂を助けに向かう展開も熱くて良い。
 ただこの手のジャンルの漫画にしては女性キャラの服装がダサいのが玉に傷。ダサいというかワンパターンで野暮ったい。ミナレとかもっと冒険的なキマった服着る性格なんじゃなかろうか。


 実は人様から借りて浦沢直樹の『BILLY BAT』も今読んでるので、最後まで読んだらまたなんか書くかもしれない。次点で読みたいな~と今思ってるのは『ザ・ファブル』『コトノバドライブ』『ルポルタージュ』…あと最近『ワンピース』に気持ちだけ再燃していて、読み返したいのに実家にしか無いのが歯痒いので、漫画として非の打ちどころがなかった11巻あたりまでは電子で買い直そうかなとも少し画策している。漫画は再読のフックが精神的にかなり軽いというのがメディアとして代えがたい強みだな。
 ところで、私が他の追随を許さない程ずば抜けて一番好きな漫画であるところの『ヒストリエ』の新刊が全然出ない。今年こそは頼みます。