取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

映画『桐島、部活やめるってよ』

傑作。青春映画って良いじゃんと初めて思わされた。

朝井リョウの原作も読んでいないし、今日ふとU-NEXTで見かけて「そう言えばコレ評判いいらしい」「いま話題の東出も出ているらしい」と軽い気持ちで見始めただけだったのに、蓋開けたらめちゃくちゃ面白くてくぎ付けになってしまった。高校生の青春映画って腐るほどあるから見もしないで辟易していた節があったし、自分の肌には合わないだろうと思ってたけど、そんな偏見を軽々粉砕してくれた。やっぱり良いものは良い。

 

www.youtube.com

 

タイトルにもなっている桐島が映画に出てくることはなく、物語は彼の喪失が周囲に巻き起こした数日間の動揺をひたすら具に描いているのだが、登場人物全員適度にイイ奴で適度に気持ち悪くて最高だったので、以下に一人一人についての感想を書く。

 

 

前田 涼也(映画部)神木隆之介
陰キャの映画オタクだが、一番まともなのであまり言うことがない。でもまともに見えるのは神木君の顔が可愛いからなんだよな。週末の映画館で偶然かすみに出会って、気になる女子と自分に共通の趣味があることを知りニヤニヤしてたのがすごく可愛いかったし、映画部部長として他の皆にイラつきつつも自分を律して指示出しする健気なところも可愛かった。神木くんの演技もやっぱ光ってて、「ロメロだよ、そんぐらい見とけ!」ってシーンは良かったね。

 

東原 かすみ(バドミントン部)橋本愛
こういう子いるいる!って感じの女子。見た目もかわいくてクラスのカースト上位のグループにいながらも、グループの中心の梨紗や沙奈の苛烈さにはちょっと引いており、言動も抑えめで遠慮がち。自分の趣味さえ明かせない。ただ、こういう子が結局一番モテるんだよな。皆に隠してちゃっかり友弘と付き合ってるのがすごいリアル。結局やることやってるテクニシャンで、プライドもかなり高いんだろうな。根っこのところは前田と共鳴するタイプなのだろうが、なまじ顔可愛いし運動もできるから女としてのプライドと欲望が先立って保守的になっている。こういう子が寛解して真っすぐ前田に行けるようになったら良い話だなと思うけど、そういうことって滅多にない。

 

菊池 宏樹(野球部幽霊部員)東出昌大
話題沸騰中の東出さん。私は映画にもドラマにも疎いので彼がちゃんと俳優してる姿を初めて見たくらいだったけど、この宏樹役はハマってて良かった。どんなにクズ男だろうが、これ以上下手打って廃業なんてのは馬鹿らしい。棒読み箇所も多々あるけど、それも含めてなんというか、でくのぼう感が役に合っている。こういう上位イケイケグループにいながらもニュートラルでぼけっとした男って実際いる。かすみにもその要素はあるけど宏樹はなんといっても男なので、より天然に葛藤なくニュートラルな位置についている。最後に屋上で前田から何気なしに「やっぱりかっこいいね」と言われて「いいよ、俺は」と初めて顔を崩したシーンはこの映画の最大の山場だね。親友に悩みも言ってもらえない自分が、前田みたいな男に顔を褒められる情けなさ。どんなに器用でも残るものが何もない自分への…。

 

飯田梨紗(帰宅部山本美月
「超イケてる私が超イケてる桐島と付き合ってることがアイデンティティー」な最上位女子。ゾッコンだった桐島が自分に何も言わず部活を辞め連絡も途絶えた事実が彼女のプライドを酷く傷つける訳だが、梨紗みたいな美人を恋人に選びながらも人間としては結局全く彼女を信用していなかった桐島という男の人柄がここに見える。途中で梨紗が美果に「は、いま笑った?」って責め立てるシーンはほんと自分に言われたようで女は皆びくっとしちゃう。


沢島 亜矢(吹奏楽部)大後寿々花
この女の気持ち悪さ、擁護できない。前の席の宏樹に想いを寄せているが彼には既に女がいるので、せめて自分の存在を知らしめようと毎日彼を見ながら屋上でサックス吹いてるサックス女。宏樹が放課後バスケやらなくなって科学室に移動したら自分も科学室に移動してサックス吹いてるのは笑ったわ。沙奈が鬱陶しく感じるのもわかる。最後、目の前でえぐいキスまで見せつけられた結果何とか自分の気持ちを清算できたようだけど、ここまでやってた人だからまた繰り返しそうな気がするけどな。宏樹がこの後ちゃんと彼女にけじめつけさせられるくらい成長したら解決するかもしれないけど。ただこんな気持ち悪いのに、登場人物の中でこの子が断トツで色気あるのも事実。

 

友弘(帰宅部浅香航大
重要な役どころじゃないけど演技がリアルで印象に残った。高校時代の教室から抜け出てきたような実体感。かすみと付き合ってる事実が判明した時「くーッ、成程な!」って声が出そうになった。

 

野崎 沙奈(帰宅部松岡茉優
ずば抜けて演技が上手い。映画部顧問に映画のタイトル尋ねて後からあざ笑うシーンとか、要所要所の細かい喋り方の癖がものすごく上手い。役としては「宏樹と付き合ってて梨紗と親友」な自分が拠り所で、自分自身にはあまり自信がないが故に他人を見下し攻撃的になっている不安定な女子高生。状況次第ですぐに自分の身の振りを変え、その時々の「イケてる」ものにしがみつく。役としてはヒールでありながら、この子もこの子で苦労してるよなというのが垣間見える。最後かすみにビンタされて視聴者的にはスカッとジャパンする訳ですが、この後この2人の関係性はどうなるんだろうと想像すると多分今度は沙奈が立場的に弱くなっちゃう気がするので(やっぱり男はかすみ側につく筈だし)、あんなに頑張ってしがみついてたのに結局かすみみたいな女に全て持ってかれるんだろうな…と偲ばれる思いはする。

 

 

ほか、体育の時に端っこでうずくまってる「曙」ってあだ名の巨漢男子とか、一瞬しか出てこない人達まで全員「いるいる!」って思えるようなリアリティーがある。それに加えて人物の絡み合いと終着点の持っていき方も抜群に上手いし、ずっと目が離せなかった。

 

レビューとか読むと結構「意味不明」って感想もあるみたいだけど、私にはかなりハマりました。まあ確かにダイナミックでロマンチックな展開を重視する人にとってはつまんないかもしれない。でも実際の高校生活ってこんな感じだし、当の高校生からしたらこういう連鎖的で些細な日常の事件が自分を四六時中大きく揺さぶる訳で、そういうのが好きな人にとってはめちゃくちゃおすすめの映画。

 

陰と陽とその間の高校生を全て描きつつも、どの立場にも必要以上に肩入れしない描き方をしてるのでそういう意味でも安心して見れる。ただ高校時代の思い出が走馬灯のように否応なく掘り起こされたから、もう学生時代のことを二度と思い出したくない人なんかは見ない方がいいかもな。自分にぴったり当てはまるような人物はいなかったけど、全てのキャラに自分を映せるような気にさせられる。

 

放課後の部活中、ふと教室に忘れ物したこと思い出して取りに戻る時の、あの道中の落ち着かない感じを思い出した。教室にまだ誰かいたらどうしよう、って教室まで忍び足でじりじり一人歩いてた自分の窮屈な気持ち。案の定教室近づいたら最上位の男女達の笑い声が響いてきて、そっと踵を返したりしたなあ。はーめんど、って思いながら…。もうこれ以上はやめよう。