取らぬ狸の胸算用

思い込みが激しい

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

広告を一目見て「絵が良いなー」と思い、今日やっと見に行けた。


『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』日本語字幕予告編

 

とにかく絵がめちゃくちゃ良い。

パステル調の主線なしベタ塗りイラストって最近流行りだし自分も好きだが、映画でこの画法使ってるのは初めて見た。絵をもっと見たいんだけど字幕も読まなきゃいけないから忙しく、コマ送りで全部確認できないのが歯がゆいくらい。

 

色使いが本当にすごい。全体的に彩度は低くくすんでいていかにも極寒のロシアという感じなんだけども、それだけに大胆でパッキリしたハイライトが生きる。全編を通した寒暖の表現もすばらしく、画面の温度という点だけで追っても、序盤に作った氷をどんどんどんどん硬く凍らせて、最後に暖炉の前に置く、みたいな一連の流れが見える。

 

普通のアニメと違って背景と人物の塗り方の区別がなく、全部ベタ塗りイラストで統一されているので、全ての画面が1枚の絵としてとても自然で美しくなっており、だからこそこんなに隅々見たくなるのかもしれない。

 

ただ、正直言って最初の方は「絵はすごく良いけどアニメでやる必要あるのか」と思っていた。序盤は貴族生活が描かれているし、台詞回しや人物の設定も洋画そのものだったから、実写でやった方が映えるような気がした。でも話が進むにつれて「いや、これはアニメだな」とやしみじみ思わされた。というのも、物語がどこまでも単純でファンタジーだからだ。

 

この映画、筋書としては「世間知らずな女の子が自分の夢のためにがむしゃらに突っ走り、苦難も経験しながら、最後には目標を達成する」という何千万煎じくらいの王道の更にその真ん中を一休さんさながら歩くような映画。でもその単純さが本当に清々しく大胆で、主人公サーシャを素直に応援できる。

それは脚本の良さも勿論大きいけれど、やっぱりアニメだから、というかあの絵だからだろう。生身の人間でこれされたら、ちょっと空々しい。あの時代に14歳の貴族の女の子がたった一人で船乗り達の世界に飛び込んだりなんかしたら、現実的にはぶっちゃけ良い慰み者にされてると思うし。そういう意味では嘘の多い話だと思う。でもああいうシンプルな線シンプルな色で単純化されたキャラクター達に動かれるとどうもいじらしいし信頼が置けて、こちらも気持ちよく騙されることができるのだ。

 

それに嘘をつくところとつかないところに一貫性もあるし、嘘も大胆だし。自然の苛烈さの描き方は厳然としていて決して子供向けのそれではない一方で、最終的にはやっぱり主人公サーシャが若干14歳で遭難船発見というあり得ない偉業を成し遂げる。この大胆さが潔くて良い。

日本の一部のアニメ映画には中途半端な嘘が多いように感じるので、こういう清々しい映画がもっと支持を得てほしい。

 

あと何となくこの映画、ジブリ特に魔女の宅急便と通じるものを感じる。具体的な部分でもサーシャに淡い恋心を抱く素朴な少年カッチや、ガサツだけど懐の広いオルガおばさんは魔女宅のトンボとオソノさんを彷彿とさせる。あらすじは全然違うけど。

 

自分も多少絵を描くので、もしDVD出たら勉強のためにも買いたいね。